2012年5月7日月曜日

BBRの雑記帳: ニュース(2)


そろそろ震災から1年ということで、こう言っては何ですがマスコミにとっても格好の稼ぎ時。なにしろ政府が間抜けなこともあってネタはいくらでもありますし。

そんな中、前から気になっていたのが、こういう碌でもないことを臆面もなく企業として宣言して営業しているイオンという会社。私も近所にあるので利用はしますし、一流通事業者に政府もやってない「科学的に正しい啓蒙活動なんてできない」ことは理解しないでもないですし、それ以外にもまあ何だかんだないわけではないですけれども、それでもこういう事業者が明らかに間違ったことを正当化しているかのように営業に用いているのは根本的におかしいのではないかと。

(以下、青字は記事引用)
東京電力<9501.T>福島第1原子力発電所の事故は、未知とも言える「放射性物質」に対する恐怖とともに、「食の安心・安全」をどのように確保するかという課題を日本の小売業に突きつけた

小売大手のイオン<8267.T>は、放射性物質を限りなくゼロに近付ける「放射能ゼロ宣言」を行い、ホームページや店頭で検査結果を公表するなど、業界 内でも突出した対応をすすめてきた。陣頭指揮を執った近沢靖英執行役・グループ商品改革責任者は「科学的な根拠に消費者心理が加わって、はじめて安心につ ながる」と語り、国の基準を守るだけでは消費者に安心を届けることはできないと指摘する。(中略)


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──昨年11月からイオンは、検査機器による測定で検出できる最小値である検出限界値を超えた商品の販売を「不検出」となるまで取り止めている。国の基準ではなく、できる限り放射性物質ゼロを目指す「放射能ゼロ宣言」に至った考え方は。

「(国が4月に出す新基準である)100ベクレルは安全かどうかなど、科学的な議論はあるが、国民・消費者は、それでは納得しない。イギリスでは、 1986年のBSE発症以来6―7年、牛肉消費が低迷した。セインズベリーは20カ月未満の牛も自主検査し、全頭検査を打ち出したことで、一気に消費が回 復した。20カ月未満の肉牛は発症しないという科学的根拠に加え、実際に検査して検出されなかった事実が重要。科学的な根拠と消費者の心理的要因が合わ さって、はじめて安心になる。それが消費者の主観的な判断だ。小売業には、社会的責任や(消費者の望むモノやサービスを消費者に代わって用意し、便利さや 満足を提供するという)消費者代位機能がある」

イオンともあろう企業なら、まず科学的に何が正しいかの見極めぐらいついているでしょう。結局、「放射脳」状態になった人からのツッコミに対して予防線を張っただけにしか見えないのです。一事業者に消費者への啓蒙を押しつけられても困るというのは理解しつつも、あんたらがそっちへ走ったら、誰が正しいことを言うんよ、というんです。


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消費者はリスクを語っても理解しない、安全とは絶対的な安全、それをさらに超えないと消費者が満足する「安心」には至らない、という理屈なんでしょうが、そのためにどれだけの消費者が間違いを抱えたまま高い社会的コストと助長された差別の中に放り込まれることになるのか。

根はもっと前、それこそBSEとか、ダイオキシンとか、過剰な安心を作り出してきた体質にあるんでしょうね。そうして、「正しく恐れる」ことがないまま、本来の無視できるリスクレベルから見れば千倍以上、いや、リスクはゼロにしなければならないという不可能を消費者に植え付けることになっているわけで。それはもはや罪悪に近いものだと思います。

国の基準では� ��費者は納得しない、という言い方もされていますが、その国の基準自体、科学的に意味のあるレベルとは桁違いに厳しすぎてしかも健康上のリスクという面でも何の意味もないというのに、そのことを無視して何を言ってるのか、ということです。多くの人は不必要に怖がりすぎている、無理とは思いつつも、本当はそれが出発点でなければならないのに。

──「放射能ゼロ宣言」は厳し過ぎ、福島をはじめとする東北の復興を阻害するという意見もある。

「中途半端な基準では、消費者の疑念が消えず、福島県産は敬遠される。福島を応援するためにも、ゼロなら買おうという消費者は多い。イオンが売っているの だから大丈夫という信頼が、福島の復興にもつながる。生産者に厳しい基準であるがゆえに、生産者を守っていくことになると信じている。商品が回ってこそ、 復興につながる」


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違う。そんな屁理屈以前に「不可能なフレーズを宣言する」ことでイメージが先に行ってしまうことが問題なのです。

こう言うとこっちも屁理屈に近くなりますが、本当に放射能ゼロを販売の基準にするのであれば、少なくとも太陽系から店舗を移転させなければなりません。そこまで極端なことを言わなくても、花崗岩質の土地に店舗を設置してはいけませんし、バナナとかジャガイモとか、あとはカリウムが豊富な食品とかは店に置いてはいけませんね。でも「放射脳」の人たちもなぜかそういうことは気にしない(特にこの種の人たちは、自然放射線と原子炉から出る放射線はまるで違うものだと持っているフシもあるし、例えば中国や韓国の原子力はいい原子 力だとか思っている人までいますし)から(そういう科学的にまともなことが広がると彼らの主張がボケますからね。でそういう話をちゃんとした人が言う場合に使われる常套句が「御用学者」)スルーしているのでしょうけれど、そういう常識に触れずにいるのは知っていてやっているなら明らかな欺瞞だし、知らずにやっている(とは思われないが)のなら社会的存在として失格でしょう。それを大流通事業者が言ってしまうから、いつまで経ってもリスクを考えるという全体最適が身につかず、狂信的リスクフリーが幅をきかせてしまうことになるのです(影響力を買い被りすぎているか?)。


例えば、「福島県産」を敬遠というより「穢れたもの」扱いすることによって、実際には日本のどこの地域と比較してもリスク面では問題のない農産物が(例えば会津方面の産品などはその典型的なものだが)忌避される、こんな状況が震災から1年経っても大して変わらないどころか、部分的にはひどくなっている、で、そこにこういう企業が側面的に関与してしまっていると思わざるを得ません。本当なら、(まず放射線原因で一般市民の犠牲者は一人も出ないと言える)今回の一連の事象をもって、「放射線を正しく恐れる」とはどういうことか、社会が学べる格好の機会だったはずなんですが(一義的には時の政権の犯罪的姿勢が問題なんですけどね)。

「complete safety はない。as safe as possibleであり、できる限りゼロに近付けようとしている。限りなくゼロにするための努力や姿勢、取り組み方が消費者に伝わって、初めて信頼が得ら れる。同じ検査をしても、情報発信者の信頼がなければ、消費者の主観的な判断として信頼は得られない。(以下略)」
(引用終わり)

企業行動としてやっていることを理解しないわけではありません。しかし、社会的にみて方向性が間違っているとしか思われないのです。消費者は神様かも知れないが、神を率いる立場になれるのもあなた方ではないのかと。本質がわかっているのなら、少なくとも誤った意識を言葉の形で広めてはいけないのですよ。



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